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まじょよったりはひがしより |
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沼の魔女 |
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WC
夕暮れに染まる町並み。怪異を撃退した君たちの前で、比嘉由良は話し始める。
比嘉 「わたしが、美紀ちゃんに教えた『おまじない』は、『キレイになる』おまじない。沼の魔女のおまじない、です。」 平太 「沼の魔女…」 比嘉 「わたしは、そのお話を、ある 都市伝説 口裂け女・人面犬・トイレの花子さんなどから始まる、全国を席巻した都市型神話群。 噂」を伝達媒体とし、「ネット」を記録媒体とし、人口に膾炙していった「都市生活の死角」を畏怖の対象として伝える近代伝承である。 アーバンレジェンド。 として知りました。美紀ちゃんは、それを『おまじない』として受け取りました。」 サヤ 「う〜ん?どういうこと?」 比嘉 「まず、『沼の魔女』のお話を、聞いてもらったほうが良いと思います。 …これは、ある町にある、昔からある旧い沼のお話です。 その沼には、一人の女が住み着いています。 女は、それはそれは美しい人で、でも、その美しさが永遠でないことも知っていました。 女には、許せませんでした。 自分が老い、その美しさが失われてゆくことが。自分が、凡百の醜い老人となることが。 そこで彼女は、自分の美しさをどこかに保管しておこうと考えました。 …彼女は、沼のほとりに咲く夕顔の群生に、自分の血を注ぎ続けました。 毎日、毎日、少しづつ。」 平太 「げー…」 比嘉 「やがて夕顔はその美しさを増し、女は、醜く老いてゆきました。 時が経ち、既に醜い老婆となった女は、それでも満足でした。今、自分の美しさは、夕顔の中に永遠に残されているから。」 サヤ 「え〜そっかなぁ…。」 WC 比嘉は、一息ついて、2人のほうを見ます。 「どうしてですか?」 と、サヤに問います。 サヤ 「どうして?って、うーん…。ただ、自分だったらやだな〜って思っただけだよ。 …だって動かしている自分の体は老婆になっちゃってるんでしょ? …深い意味はないけどね。」 比嘉 「そうですか。…そうですね。人、それぞれかもしれません。 …でも、このお話には続きがあります。 少しの時が過ぎます。 夕顔は、相変わらず、沼のほとりに美しく。 ある女が、この夕顔にまつわる話を聞きました。その女は、自分が世界で一番醜い、と、考えていました。 女は、藁をもつかむ思いで、夕暮れ時、この沼に向かいます。 …そして、咲き誇る夕顔を1輪摘み取り。 ぱくりと、食べてしまいました。」 平太 「…」 比嘉 「次の朝、目が覚めた女は、いつものように憂鬱な気分で鏡を覗きます。 驚いたことに、そこには、昨日よりほんの少しだけ美しくなった自分が映っていました。 そう。女は、夕顔に移されていた、『美』を盗み出すことに成功したのです。 それからというもの、女は、毎日、沼に通いつめるようになりました。…毎日、毎日、1輪ずつ。沼の夕顔から、『美しさ』を盗み続けたのです。 ひとつき後、女の周りの全ての人が、女が、かつて醜かったことを覚えていませんでした。 女は、いま、自分の知る限りで最も美しい女性となった自分に気がついたのです。 と…ここから結末にかけては、話によって色々ですね。」 平太 「…めでたしめでたし…ってわけにはいかなかったのか?」 比嘉 「一番多いのは、お決まりの、一週間後に、自分の美しさを取り戻しに来た老婆に襲われて…盗んだ女は、皺だらけの老婆になって死ぬとか…顔の皮膚をはがれて死ぬとか…」 サヤ 「あ〜、そっか。 私はその人が自分の美しさを取っておきたくて、また老婆と同じ事を…とかかと思ったよ。 比嘉 「そうですね、そういう結末もありました。 …美紀さんは、この話をしたときに、なにか…なんていうんでしょうか…心当たりがあるみたいな…この話を…本気で信じ込んでるみたいな…そんな、顔、してたように…思います。」 WC 比嘉は、息をつくと、言葉を切る。 平太 「ちなみに比嘉さんは、どこでこの話を知ったの?」 比嘉 「ウェブサイトですかね…。」 平太 「ふーん… 比嘉 「都市伝説系のサイト、いま、結構あるんですよ。」 平太 「はやりみたいだしね。」 比嘉 「杉沢村 有名な都市伝説の1つ。 かつて虐殺があった、政府の手が及ばない、村人は生きたままダムの底に沈んだ、など、バリエーションを変えて語られる「地図にない村」伝承の、原型の1つである。 とか、結構知名度高いですよね。」 サヤ 「美紀ちゃんには、なんでこの話を?…きれいになりたいって言ってたからかな?」 比嘉 「…そうですね。 美紀ちゃん、私が、前に一度、学校で都市伝説の話をしてるのを横で聞いていて…それから、よく、私にそういうことを聞いてくるようになったんですよ。 美紀ちゃん自身は、おまじないの元ネタ、みたいに考えていたみたいですけど。」 平太 「それで仲良くなったのか…」 比嘉 「ですから、そうですね。美紀ちゃんにこの話をした意図、って聞かれると、ちょっと困るかもしれません。」 サヤ 「そっか。」 平太 「ま、なんにしても…その話を田口さんが鵜呑みにしたなら、夕顔のとこにいるのか?」 サヤ 「そうねぇ…。 比嘉さんには何か心当たりの場所とかある?」 比嘉 「心当たり…ですか? …何の場所のことですか?」 サヤ 「美紀ちゃんがその話きいて心当たりありそうだったんでしょ? なんか、美紀ちゃんが思いつくような事。場所じゃなくてもいいや。」 比嘉 「ええと…そうですね…さっき大門さんが『仲良くなった』って言いましたよね? …あれ、ちょっと違うんです。」 平太 「へ?」 サヤ 「ちがうの?」 比嘉 「美紀ちゃんは、グループのひとたちとの交流を維持するために、私と友達では『いけなかった』んです。 だから、その…正直、美紀ちゃんの普段のこととか、私、ぜんぜん知らなくて。だから、なにも、思い当たることとかは…」 平太 「…そっか…」 比嘉 「すいません…」 平太 「とりあえず、夕顔って8号線の公園になかった? …あの三日月沼のあたりさ。」 比嘉 「え? …夕顔なんて、どこにでもありますけど…」 平太 「まあ、そうだけどさ〜…沼と夕顔っていったら、あそこじゃね?」 比嘉 「そうなんですか? …じゃあ、確かに、舞台としてはぴったりですね。」 平太 「まあ、俺のランニングコースだけどね。」 比嘉 「あはは。ちょっと雰囲気ないですね。」 平太 「あ、とりあえず、その『都市伝説』サイト知りたいな…携帯は…ないんだっけ?」 比嘉 「ええと…わたしはPCからしか見ないので。」 平太 「じゃあ、おれのメールアドレス教えれば、そのURL教えてもらえるかな?」 比嘉 「なんてサイトだったかな…リンク4つくらい辿って行った、ブログサイトだったと思うんですけど…アドレスは分からないですね…」 平太 「…そか〜…じゃあ、検索してみるか。」 サヤ 「そだね〜。」 比嘉 「リンクのはじめの、総合検索サイトなら分かりますよ。都市伝説系の。」 平太 「それでもいいや。じゃあ、一応アドレス教えるね。」 比嘉 「はい。わかりました。」 平太 「あと、田口さんの事でも気になったことがあったら教えてね。」 比嘉 「はい。」 平太 「さやねぇ、あとなにかある? サヤ 「う〜ん。そだね。じゃ、あと一個だけ…。 そんなにグループとか気にする感じなんだよね〜。美紀ちゃんとは、なにで連絡とりあってたのかな〜?って。学校じゃあんまりしゃべれなさそうだからさ。」 比嘉 「普通ですよ。美紀ちゃんが、『おい比嘉ー…』って言うんですよ。…話聞きたいんだなって思うから、図書室で待ってます。 来るときもあるし、来ないときもあります。私は、図書室で本を読んでいれば良いので、とくに苦にはなりませんし…」 サヤ 「そっか。女子高生も大変だね〜。ふつーに教室で話せればいいのにね。」 比嘉 「お付き合い、ですから。」 平太 「んだね〜。男の俺にはわからん。」 サヤ 「ん。こんな感じかなぁ。へーたんが大丈夫なら。」 平太 「ま、時間もおそいしね。」 サヤ 「うん。送っていった方がいいね。」 WC そうですね、長く話していたせいでしょう。そろそろ、夜の帳が下りてきています。 サヤ 「あれ、家近いんだっけ?」 平太 うん、一応近くの公園かな。 比嘉 「はい。すぐそこですよ。一人でも平気です。」 平太 「じゃあ、ありがとね。また何か聞くかも。 話すなら、図書館の方がいい?」 比嘉 「ふふ。大門さんが、私とお付き合いするのを嫌がる方の多いグループにいるなら、ですね。」 平太 「そんなグループないけどね(笑)。でも今日怖がっていたみたいだからさ。 …じゃあ、普通に教室に行って良いのかな?」 比嘉 「どうぞ。ぜひ。」 平太 「じゃあ、直に聴きに行くよ。」 サヤ 「へーたんが暴れたら、私に報告してくれれば、やっつけたげるから♪」 平太 「あばれないって!(笑)」 比嘉 「ふふ。はい、そのときはお願いしますね。」 サヤ 「遅くまでつき合わせちゃってごめんね〜。」 比嘉 「んじゃ…送ってったほうがいい?」 WC 「いいえ。ここで。…おやすみなさい。」 平太 「じゃあ、ありがとね〜。」 サヤ 「ありがとう。気をつけてね。」 WC ぺこりと頭を下げ、比嘉は宵闇の薄暮に消えてゆく。 |
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