WC
すたすたと歩いてゆく柏陽ですが、そこは小柄な老人のこと。
サヤの足でもすぐに横に並べます。
平太
後ろにつくよ。
柏陽
「あんたらも、室伏んとこのってこたあ…
拝み屋
いわゆる「お払い」などを行う民間呪者の俗称。
混じりの何でも屋、なんだろ?」
WC
柏陽がぼそりと言います。
平太
「そ、です…ね?」
サヤ
「…そんな感じです。」
柏陽
「じゃあよ。もしなんかあったら、頼めるかね。」
WC
独り言のように呟きます。
柏陽
「なかなかよ。世の中、事情を知ってる奴にだからこそ、頼みにくいこともあるしよ。」
サヤ
「ええ、私たちでお手伝いできる事であれば。」
平太
「もちろん、やりますよ。」
柏陽
「まあ、たのまあ。」
平太
ああ、若さからの安請け合い…。
WC
にやりと笑い、冗談めかしていますが、その眼光は、彼の人生を裏付けるように、鋭く、重い。
平太
「はい!」
サヤ
「…ええ。」
WC
3階。
既に殆どの電気は落とされ、「その部屋」の前の廊下だけが、ぼんやりした明かりに照らされている。
窓の外は暗く、此処が間違いなく山の中であることを教えてくれる。
長月館の方角は、黒々とした闇に飲まれ、人の目には館はおろか、その屋根さえも見ることはできない。
柏陽は、懐から一本の鍵を取り出し、「その部屋」の扉に差し込む。
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柏陽
「そらよ…と。」
WC
そして、両開きの引き戸をぐいと押し開ける。
中には、薄い煙が漂っている。香だろうか。
平太
ちょっとびっくり。
WC
灯明が4方に灯され、天井からは紅の紗幕が層を成して垂れ下がっている。
調度品は和風に纏められ、床は畳だ。
サヤ
この部屋には何か特別な力がある?
WC
フィール判定でどぞー。
サヤ
ケアフルで、1でたけど、12。
WC
感じるのかどうか。
人は、優れた芸術や、思いの積み重なった建造物を前にしたとき、「人を超える何か」を感じずにはいられない。
ある意味、「魔法」などもその一部であると言える。
その意味では、この部屋にある「なにか」の「重み」に圧倒され、些細な怪異の気配などは感じ取れない。
サヤ
では、この部屋の「なにか」を<星戟>で。
主婦バースト
サヤの「やる気ポイント」は「主婦ポイント」。
その効果の1つで、「判定を、サイコロの目にかかわらず<バースト>(使用済みマトリクスを用い、サイコロを再度振って目を加算することができる)にする」効果を持つ「主婦バースト」。
で6、使用済みマトリクスのCを再利用して、再度6。フィール18。
平太
おー。
WC
混沌として判然としない。分からなかったわけではない。
そこに積み重なっているのは、権勢の甘さとリスク、人同士の信頼と裏切り、無限に渦巻く怨嗟と歓喜。
「ただの」人の想いだけだ。
サヤ
「うっ…。」
平太
「ん? だいじょぶ?」
WC
平たく言えば、1人の人間や魔物が生み出せる程度のチャチな呪い、などではない。
サヤ
「ちょっと、やなもん感じた…。」
柏陽
「なんか分かるかい、ねえさん?」
WC
サヤの呼吸の変化を、わかっていて見逃したのだろう柏陽が問う。
サヤ
「いや、よくはわかりません…。けど、たくさんの人の想いを。」
柏陽
「良いも悪いも、そいつを束ね、そいつを引きちぎり、そいつを利用してきたのが吐月だ。」
平太
「…」
柏陽
「あんたは『正常な』側にいるってことさ。」
WC
柏陽は草履を脱ぎ捨てると、中央の御簾を上げ、その中に置かれた座卓の前に座る。
その向かいに、同じような座卓が2つ、用意されている。
その卓をさし、あごをしゃくる。
柏陽
「ぼっと立ってねえで、席につきな。」
平太
じゃあ、座ろう。
サヤ
「失礼します。」
柏陽
「まあ、かてえ事はいわねえさ。面倒な手続きは終わってんだ。」
WC
と、立ち上がり、部屋の隅に置かれた箪笥から、2枚の書類と、小さな封筒を持ってくる。
柏陽
「こいつが鍵だ。」
平太
「いただきます。」
柏陽
「で、こっちの2枚に名前書いてくれるか?」
WC
どうやら受取人のサインと、受け渡し側の控えのようだ。
サヤ
「はい。」
平太
「…ふたりでですか…はい。」
柏陽
「おう、2枚ともな。俺も書く。」
WC
と、所定の欄に見事な花押を描く。
サヤ
特に怪しい文面があるわけじゃないよね?
WC
場所が場所なら、ちっちゃい不動産屋さんのおっちゃんが出してくる方がしっくり来るような物です。
藁半紙に印刷された、鍵ちゃんと貰ったよ、と言う書面と、もうあげちゃったよ、と言う書面。
サヤ
じゃ、普通にサインします。
柏陽
「こっちの一枚は、そちらさんのだ。持ってきな。」
WC
『ちゃんと貰ったよ』の方を、封筒に入れてくれます。
柏陽
「ばあさん達も、突然消えちまって、あの事件だからなあ。身につまされるってのはこのことだ。」
サヤ
「突然消えた?」
柏陽
「ん? おう。知らねえうちに引き払っちまってよ。
…山1つ挟んでたってお隣だ。なんかかんかあるじゃねえか、なあ?」
サヤ
「いつ頃の話ですか?
柏陽
「知らねえよ。知ってたら、『突然』なんて言うかよ。」
サヤ
「気づいたのはいつのことですか?」
柏陽
「あの事件で始めて知ったのさ。立川の事件でよ。」
平太
「新聞に出いていたのが、屋敷の住人だった?」
柏陽
「新聞でンなことまでわかるかよ。お前らんところが教えてくれたんじゃねえか。」
サヤ
「すみません、立川の事件ってどんなものですか? 私たちも最近入ったばかりで…」
柏陽
「3人死んだ。一人は生き残って、禍になった。
…そうじゃねえのか? ええ、拝み屋?」
サヤ
「あ…、その事件ですか…。」
平太
「そう聞いていますけど…あの屋敷自体が関係あるのかどうかも…まだ未定らしいですけど。
あと、屋敷に住んでいたのは5人なんですよね。」
柏陽
「あのな。『20年会ってねえ』って言ったろ?」
平太
「じゃあ、この名前に心当たりはありますか?…比嘉由良って名前に。」
柏陽
「ねえな。」
平太
「じゃあ、わかるだけで何人いたんですか?」
柏陽
「1人。」
平太
「全然話違うじゃん。じゃあ、その方の名前はなんて言うんですか?」
柏陽
「しらねえな。」
平太
「えー。まあ、言えないなら言えないでいいんですけど。」
柏陽
「坊主。俺ァおめえの『先生』じゃねえからよ。何でも知ってるわけじゃねえし、何でも教えてやれるわけじゃねえのよ。」
平太
「まあ、そうですけどね。知らないって事にびっくりしただけです。」
サヤ
「『ばあさん達』っておっしゃっていたということは、何人かで住んでいたのはご当主も知っていたんですよね。」
柏陽
「おう。たぶんだがな。」
サヤ
「ちなみに、こちらから立川の事件のこと、ご当主に話したのは室伏ですか?」
柏陽
「おう、あそこの次男坊だぜ。」
サヤ
「次男坊!? れーさんて次男坊だったっけ?」
平太
「えー!…兄弟関係には興味ないからなー。」
サヤ
「(あとでれーさんに確認してみよう…。)」
柏陽
「礼の兄貴の保だよ。おめえさんとこの社長じゃねえかよ。
かー、ったく、今のわけえやつらは…」
平太
「いやいや、説明不足だよあの人!
だいたいさー、なんか抜けてるんだよね礼さん。」
礼
「あら? 会社概要のパンフなんでここにあるねんやろ。
しかも2部。誰が出したんやろか。…片付けよ。」
平太
だめだよ、礼さん(笑)。
柏陽
「まあ、わけえやつらがどうこう言えるほど俺もまっすぐ生きてるわけじゃねえ。
なんかどうか、歪んでンだろうな、俺たちも。ばあさん達も。」
平太
「人に関わりすぎたんじゃないですか?」
WC
話は終わり、とばかりに手を叩きます。
柏陽
「さて、寝るぜ。」
サヤ
「はい、色々とありがとうございました!」
ぺこり。
平太
「ありがとうございます。」
WC
柏陽は、2人が出たのを確認すると、扉を閉めます。
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