虚空の翼

◆2話 ◆

うつつにうつるはまぼろしの
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吐月館
 
平太  屋敷ぷらぷら〜時間をもてあますよな〜。

WC  田舎とはそういうものだ。 そして19時になったころ。 
サヤは部屋をノックされ、へーたはぶらぶらしているところを声かけられ、屋敷の食卓に着くことになる。

【大食堂】

WC  柏陽・詠歌以外の2人が卓についており、共由は立ち働いている。 
食器がそろい、何品かの料理が並ぶころ、柏陽と詠歌が入ってくる。

柏陽  「おう、すまんな。えらい待たせっちまった。」

平太  「いえいえ、食事までごちそうになってすいません。」

サヤ  「それにお部屋までお借りしてしまって、ありがとうございます。」

柏陽  「おう。泊って行くと良い。鍵は今日のうちに渡すからよ。」

平太  「すいません。」

柏陽  「飯の前で頭下げあってんのもくだらねえや。まあ、食っちまおうぜ。」

平太  「いただきます!」

サヤ  「いただきま〜す。」

柏陽  「共由は、母親に似て、飯の腕は最高だからよ。」

WC  5人の家人による簡素な食事だ。
給仕を兼ねる共由、会社関係の仕事の話をゆったりと続ける詠歌と蒼次郎、ミハエルと共由は(芸術系の)雑誌について話し、柏陽はのんびりと晩酌。 
いずれも、客に対して無理に話題を振ってきたりはしない。

平太  そして、いっぱい食べる平太。

サヤ  「あの、いつも食事は皆さんご一緒なんですか?」

詠歌  「いつもってほどいつもじゃないわねえ。みんな仕事持ってるし、1人2人いないのはいつものことよ。」

WC  詠歌が上品に箸を使いながら応える。

サヤ  「そうですよね。でも、5人もいらっしゃるといいですよね。にぎやかで。」

ミハエル  「そうだね。家族は一緒が一番だ。」

WC  明るく笑うミハエルは、さすがに箸は上手く使えないようだ。

サヤ  「ミハエルさんは日本に来てどれくらいなんですか?」

ミハエル  「6年くらい?…だよね、詠歌?」

詠歌  「そうよ。もうすぐ7年じゃない?」

ミハエル  「ハイスクールを辞めて、日本に写真をとりに来たんだ。で、詠歌と出会ったわけ。」

サヤ  「なるほど〜。日本語は日本に来てから勉強されたんですか?」

ミハエル  「いや、向こうでスクールに通ったよ。1年くらい。
厳しい先生だったけど、あんまり役には立たなかったな。」

WC  と、苦笑。

サヤ  「じゃあ、もともと日本に来るつもりだったんですねー。」

ミハエル  「うんそう。日本の自然に興味があったのさ。今は、日本人の心の中に興味津々。」

WC  ウインク。

サヤ  あはは。と笑ってごまかす。

蒼次郎  「時に、大門君はどこの高校に?」

WC  蒼次郎がゆっくりとコーヒーを啜りながらきく。

平太  どこだっけ?

WC  たしか、私立デスコロシアム学園…
入学生8000人のうち、卒業できるのは20人という、 男塾 宮下あきらの古典漫画「魁!!男塾」のこと。
男を鍛える塾で熱い男達が戦ったり、戦ったり、死んだり、戦ったり、死んだり、戦ったりする筋立て。
も真っ青な…

サヤ  やな名前だな〜。

平太  「えー… 昭栄学園高校 久々里市内にある私立のマンモス高校。全校生徒は約900名。
体育科は、全国大会・インハイなどで常に大きな成果を上げている。
進学実績は、特進科を除いて非常に平凡。
校風は、問題行動がなければ基本的には過度の干渉をされない放任型。
ただし、腐っても私立なので、特進科を中心に行われる補習・講習会は充実しており、学内設備の充実度もかなり良い。
ですね。」

WC  少し考え。

蒼次郎  「八王子かね?」

平太  「そうですね、久々里市になります。」

蒼次郎  「ああ、そうか。住所は久々里市か。あそこは野球が強かった覚えがあるが、今もそうなのかね?」

平太  「ええ、野球に力を入れてますから強いですよ〜。でも、今年のピッチャーはどうかな。」

蒼次郎  「そろそろ甲子園だが、応援に行ったりするんだろう?」

平太  「うーん…まあ、行ければですね。」

サヤ  「(ご当主に聞いた方がいいかな。長月館のこと。)」

平太  「(どうだろ…)」
雰囲気はどうかな? 聞いてもいい雰囲気?

WC  柏陽は、和装の袖から取り出したタバコ(庶民的な銘柄だ)に火をつけ、寛いでいる。

柏陽  「共由、ちっと3階を片付けといてくれや。」

平太  「(いまならよさげかも。)」

サヤ  「(うん。)」

共由  「はい。かしこまりました。」

サヤ  「ご当主は長月館に以前住んでらした方とお会いしたことあるんですか?」

柏陽  「ばばあどもとか。」

サヤ  「(ばばあども…。)」

平太  「(ばばあ…そして、ども…)」

柏陽
  「『お会いする』なんて上等なもんじゃねえや。」

WC  と、眉をひそめて言い放つ。

柏陽  「わけえころは悶着あったが、ここ20年は顔も見てねえな。」

平太  「いい関係じゃ無かったんですね…。」

WC  それには答えない。

サヤ  「こちらの親戚とか、何かつながりがある方達ではなかったんですか?」

柏陽  「やめやめ!
あんな妖怪ばばあどもとおんなじ血が流れてるなんざ、考えるだけでゾッとするぜ。」

サヤ  「あ、ごめんなさい…。」

柏陽  「つまんねえ話はやめな。上に行くぜ。」

WC  柏陽は立ち上がり、袖を払うと食堂の外に出てゆく。

詠歌  「あらら、父さんたら…」

蒼次郎  「紅簾の間に鍵を取りにいくんだろう?追いかけないと。」

WC  と、蒼次郎が2人に目配せしてくれます。

サヤ  「うん。」

平太  「鍵取りに行くなら。」 

 
WC  すたすたと歩いてゆく柏陽ですが、そこは小柄な老人のこと。 サヤの足でもすぐに横に並べます。

平太  後ろにつくよ。

柏陽  「あんたらも、室伏んとこのってこたあ… 拝み屋 いわゆる「お払い」などを行う民間呪者の俗称。 混じりの何でも屋、なんだろ?」

WC  柏陽がぼそりと言います。

平太  「そ、です…ね?」

サヤ  「…そんな感じです。」

柏陽  「じゃあよ。もしなんかあったら、頼めるかね。」

WC  独り言のように呟きます。

柏陽  「なかなかよ。世の中、事情を知ってる奴にだからこそ、頼みにくいこともあるしよ。」

サヤ  「ええ、私たちでお手伝いできる事であれば。」

平太  「もちろん、やりますよ。」

柏陽  「まあ、たのまあ。」

平太  ああ、若さからの安請け合い…。

WC  にやりと笑い、冗談めかしていますが、その眼光は、彼の人生を裏付けるように、鋭く、重い。

平太  「はい!」

サヤ  「…ええ。」

WC  3階。 既に殆どの電気は落とされ、「その部屋」の前の廊下だけが、ぼんやりした明かりに照らされている。 
窓の外は暗く、此処が間違いなく山の中であることを教えてくれる。 
長月館の方角は、黒々とした闇に飲まれ、人の目には館はおろか、その屋根さえも見ることはできない。 
柏陽は、懐から一本の鍵を取り出し、「その部屋」の扉に差し込む。

柏陽  「そらよ…と。」

WC  そして、両開きの引き戸をぐいと押し開ける。 中には、薄い煙が漂っている。香だろうか。

平太  ちょっとびっくり。

WC  灯明が4方に灯され、天井からは紅の紗幕が層を成して垂れ下がっている。 調度品は和風に纏められ、床は畳だ。

サヤ  この部屋には何か特別な力がある?

WC  フィール判定でどぞー。

サヤ  ケアフルで、1でたけど、12。

WC  感じるのかどうか。 人は、優れた芸術や、思いの積み重なった建造物を前にしたとき、「人を超える何か」を感じずにはいられない。
ある意味、「魔法」などもその一部であると言える。 
その意味では、この部屋にある「なにか」の「重み」に圧倒され、些細な怪異の気配などは感じ取れない。

サヤ  では、この部屋の「なにか」を<星戟>で。 主婦バースト サヤの「やる気ポイント」は「主婦ポイント」。
その効果の1つで、「判定を、サイコロの目にかかわらず<バースト>(使用済みマトリクスを用い、サイコロを再度振って目を加算することができる)にする」効果を持つ「主婦バースト」。
で6、使用済みマトリクスのCを再利用して、再度6。フィール18。

平太  おー。

WC  混沌として判然としない。分からなかったわけではない。 
そこに積み重なっているのは、権勢の甘さとリスク、人同士の信頼と裏切り、無限に渦巻く怨嗟と歓喜。 「ただの」人の想いだけだ。

サヤ  「うっ…。」

平太  「ん? だいじょぶ?」

WC  平たく言えば、1人の人間や魔物が生み出せる程度のチャチな呪い、などではない。

サヤ  「ちょっと、やなもん感じた…。」

柏陽  「なんか分かるかい、ねえさん?」

WC  サヤの呼吸の変化を、わかっていて見逃したのだろう柏陽が問う。

サヤ  「いや、よくはわかりません…。けど、たくさんの人の想いを。」

柏陽  「良いも悪いも、そいつを束ね、そいつを引きちぎり、そいつを利用してきたのが吐月だ。」

平太  「…」

柏陽  「あんたは『正常な』側にいるってことさ。」

WC  柏陽は草履を脱ぎ捨てると、中央の御簾を上げ、その中に置かれた座卓の前に座る。 
その向かいに、同じような座卓が2つ、用意されている。 その卓をさし、あごをしゃくる。

柏陽  「ぼっと立ってねえで、席につきな。」

平太  じゃあ、座ろう。

サヤ  「失礼します。」

柏陽  「まあ、かてえ事はいわねえさ。面倒な手続きは終わってんだ。」

WC  と、立ち上がり、部屋の隅に置かれた箪笥から、2枚の書類と、小さな封筒を持ってくる。

柏陽  「こいつが鍵だ。」

平太  「いただきます。」

柏陽  「で、こっちの2枚に名前書いてくれるか?」

WC  どうやら受取人のサインと、受け渡し側の控えのようだ。

サヤ  「はい。」

平太  「…ふたりでですか…はい。」

柏陽  「おう、2枚ともな。俺も書く。」

WC  と、所定の欄に見事な花押を描く。

サヤ  特に怪しい文面があるわけじゃないよね?

WC  場所が場所なら、ちっちゃい不動産屋さんのおっちゃんが出してくる方がしっくり来るような物です。 藁半紙に印刷された、鍵ちゃんと貰ったよ、と言う書面と、もうあげちゃったよ、と言う書面。

サヤ  じゃ、普通にサインします。

柏陽  「こっちの一枚は、そちらさんのだ。持ってきな。」

WC  『ちゃんと貰ったよ』の方を、封筒に入れてくれます。

柏陽  「ばあさん達も、突然消えちまって、あの事件だからなあ。身につまされるってのはこのことだ。」

サヤ  「突然消えた?」

柏陽  「ん? おう。知らねえうちに引き払っちまってよ。
…山1つ挟んでたってお隣だ。なんかかんかあるじゃねえか、なあ?」

サヤ  「いつ頃の話ですか?

柏陽  「知らねえよ。知ってたら、『突然』なんて言うかよ。」

サヤ  「気づいたのはいつのことですか?」

柏陽  「あの事件で始めて知ったのさ。立川の事件でよ。」

平太  「新聞に出いていたのが、屋敷の住人だった?」

柏陽  「新聞でンなことまでわかるかよ。お前らんところが教えてくれたんじゃねえか。」

サヤ  「すみません、立川の事件ってどんなものですか? 私たちも最近入ったばかりで…」

柏陽  「3人死んだ。一人は生き残って、禍になった。
…そうじゃねえのか? ええ、拝み屋?」

サヤ  「あ…、その事件ですか…。」

平太  「そう聞いていますけど…あの屋敷自体が関係あるのかどうかも…まだ未定らしいですけど。 
あと、屋敷に住んでいたのは5人なんですよね。」

柏陽  「あのな。『20年会ってねえ』って言ったろ?」

平太  「じゃあ、この名前に心当たりはありますか?…比嘉由良って名前に。」

柏陽  「ねえな。」

平太  「じゃあ、わかるだけで何人いたんですか?」

柏陽  「1人。」

平太  「全然話違うじゃん。じゃあ、その方の名前はなんて言うんですか?」

柏陽  「しらねえな。」

平太  「えー。まあ、言えないなら言えないでいいんですけど。」

柏陽  「坊主。俺ァおめえの『先生』じゃねえからよ。何でも知ってるわけじゃねえし、何でも教えてやれるわけじゃねえのよ。」

平太  「まあ、そうですけどね。知らないって事にびっくりしただけです。」

サヤ  「『ばあさん達』っておっしゃっていたということは、何人かで住んでいたのはご当主も知っていたんですよね。」  

柏陽  「おう。たぶんだがな。」

サヤ  「ちなみに、こちらから立川の事件のこと、ご当主に話したのは室伏ですか?」

柏陽  「おう、あそこの次男坊だぜ。」

サヤ  「次男坊!? れーさんて次男坊だったっけ?」

平太  「えー!…兄弟関係には興味ないからなー。」

サヤ  「(あとでれーさんに確認してみよう…。)」

柏陽  「礼の兄貴の保だよ。おめえさんとこの社長じゃねえかよ。 
かー、ったく、今のわけえやつらは…」

平太  「いやいや、説明不足だよあの人! 
だいたいさー、なんか抜けてるんだよね礼さん。」

  「あら? 会社概要のパンフなんでここにあるねんやろ。
しかも2部。誰が出したんやろか。…片付けよ。」

平太  だめだよ、礼さん(笑)。

柏陽  「まあ、わけえやつらがどうこう言えるほど俺もまっすぐ生きてるわけじゃねえ。
なんかどうか、歪んでンだろうな、俺たちも。ばあさん達も。」

平太  「人に関わりすぎたんじゃないですか?」

WC  話は終わり、とばかりに手を叩きます。

柏陽  「さて、寝るぜ。」

サヤ  「はい、色々とありがとうございました!」
ぺこり。

平太  「ありがとうございます。」

WC  柏陽は、2人が出たのを確認すると、扉を閉めます。 

 
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