虚空の翼

◆2話 ◆

うつつにうつるはまぼろしの
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蒼次郎
 
WC  サンルーム。

平太  「おはようございます。」

WC  テーブルに書類とPCを広げ、携帯片手に仕事中の蒼次郎が振り向く。

蒼次郎  「おはよう。」

サヤ  「おはようございます。」

平太  「今いいですか?」

蒼次郎  「かまわないが、仕事をしながらで良いかね。」

平太  「はい。」

蒼次郎  「さすがに、全く館から出られないと、効率が悪くてね。」

サヤ  「そうでしょうね。」

平太  「ちょっとお願いなんですけど…」

蒼次郎  「うん?」

WC  書類とにらめっこしながら聞き返す。

平太  「長月館の、ある部屋の鍵が、柏陽さんの所に送られているようでして。」

蒼次郎  「それは昨日聞いたね。」

平太  「その鍵を探したいので、柏陽さんの部屋に入らせてほしいです。」

蒼次郎  「ふむ。あまり荒らされても困るので、私の立ち会いのもとでなら、かまわないよ。でなければ、共由でも良いが。」

平太  「はい、それでもいいです。」

サヤ  「ありがとうございます。」

平太  「あ、あとですね。昨日の事を聞いてもいいですか?」

蒼次郎  「うん?」

平太  「一番最初に、倒れてるのを見つけたのは蒼次郎さんだって聞いたので。」

蒼次郎  「そうだよ。驚いた。まさか兄があんなことになるとは。」

平太  「なにか大きな音とかして駆けつけたんですか?」

蒼次郎  「いや。仕事の関係で話をしたくて探していたんだ。
ちょっと前に紅簾の間の鍵を出していたから、きっといるだろうと思って見に行ったら、もう倒れていたんだよ。」

平太  「その前には、外からのお客さんと柏陽さんは会っていたんですか?」

蒼次郎  「あの部屋でかね?」

平太  「はい。」

蒼次郎  「まあ、昨日の日中は、そうだったが。あの直前は、そんな事はなかったよ。」

サヤ  「鍵を出していたってことは、一回は、柏陽さんが紅廉の間から出ている姿をご覧になっているんですね?」

蒼次郎  「ああ、夕食の少し前だったかな。
兄が、自室から鍵を持って出てきたから、そこで少し話をしたんだ。」

サヤ  「なるほど、ずっとこもっていらしたわけじゃなかったんですね。」

蒼次郎  「そうだね。その時は、あの部屋に何かを置き忘れたかどうかしたんだろうと思って特に気にしなかったが。」

サヤ  「その時柏陽さんはどんな様子でしたか?」

蒼次郎  「いたって普通、だよ。
…そうだね、夕食の前だったし、これから一杯引っ掛けようかって、そんな雰囲気だったような気がするねえ。」

平太  「皆さんで?」

蒼次郎  「ん?」

平太  「引っかけようって、酒を飲むって事?」

蒼次郎  「ああ、兄は、晩酌が趣味みたいなものだったしね。」

平太  「一人で晩酌ですか? 誰かと一緒にとか。」

蒼次郎  「家族が付き合うこともあったが、それは兄にとって重要なことではないと思うね。味噌汁。食後の茶。そんなものさ。
相伴がいても、いなくても、その日の終わりに軽く一杯呑む。」

平太  「仕事の後のいっぱいって感じか。」

蒼次郎  「そうだね。」

サヤ  「あの…、もし差し支えなければ、部屋の前で何をお話されたか伺う事できますか?」

蒼次郎  「ああ、うん…細かくはさすがに言えないが、仕事の話だよ。系列会社の運営方針について、アドバイスを貰ってたんだ。」

サヤ  「なるほど…。ありがとうございます。 あと、もう一つ。
昨日も質問させていただいたんですが、蒼次郎さんが『事件』だと思った根拠って、何かあったんですか?」

蒼次郎  「うん。そうだね。君たちは、どう思う?」

平太  「皆さんそう聞くんですね。この状況なら、病死とかだと思いますけど。」

サヤ  「うん、そうだよね。」

蒼次郎  「どっちでも良いんだよ。大切なのは、『吐月の当主が死んだ』ということさ。そういう『事件』なんだ。
死因がどうだ、とか、誰が犯人か、なんてのは、どうでも良いんだ。」

平太  「良くはないでしょ、人が死んでるんですよ。ましてや、殺しという話も出てるんだし。」

蒼次郎  「そうだね。この屋敷の外に波及したら、そういう『常識』になるだろう。君たちは、『外』の住人だ。なおさらね。」

サヤ  「つまり、蒼次郎さんは『当主が亡くなった』という事実そのものを『事件』と言った、と。  そういう意味ですか?」

蒼次郎  「そういうことだね。」

WC  穏やかなロマンスグレーは、噛んで含めるように、そう語る。

平太  「わからないですよ、『殺し』も『病死』も同じみたいに。それでいいんですか?」

蒼次郎  「君は、戦場で、死因がどうとか、動機がどうとか語りたいタイプかね?」

平太  「ここは戦場じゃないでしょ。まして、身内じゃないですか。」

蒼次郎  「ふふ。」

WC  蒼次郎は笑う。

蒼次郎  「経験を。たくさんの経験をしたまえ。若いうちは特にね。」

平太  「もし、これが殺しだとして、あなたがそれでも『事件』で片付けるなら何も言いません。
でも、オレの目から見たら絶対おかしいことです。それだけは伝えておきます。」

蒼次郎  「君の言葉にある矛盾こそが、多分、君の得がたい財産だとは思うね。大事にしたまえ。」

平太  「…さやねぇなんか他に聞くことある?」

サヤ  「ううん。私はとりあえず大丈夫かな。」

蒼次郎  「ああ。そうだ。」

WC  少しだけ声を落として。

蒼次郎  「この状況になった以上。次の当主が決まるまで、君たちはここから出てはいけないのだが。
無事に帰りたいのなら、ミハエルにはあまり心を許さない方が良い。できるだけ、不干渉を貫きたまえ。」

平太  「え?」

WC  と、へーたをちょっとだけ見て。

蒼次郎  「無理かもしれんがね。」

WC  と、苦笑。

サヤ  「ミハエルさん…?」

平太  「じゃあ、おれは共由さんと一緒に柏陽さんの部屋で鍵を探させてもらいます。お仕事中すいませんでした。」

蒼次郎  「ふむ。」

サヤ  「ありがとうございました。」

平太  じゃあ、階段をおりて「ミハエル、詠歌」部屋へ向かうか。
「みんな仲がいいと思ったけど、そうでもないのかな?」

サヤ  「うん…、この状況じゃあね。」 
 
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