虚空の翼

◆2話 ◆

うつつにうつるはまぼろしの
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詠歌
 
WC  2階、東の家人室。

平太  扉ノック。

サヤ  「それに、ミハエルさんは蒼次郎さんによく思われてないの分かってたみたいだし。」

平太  「そそ、意外だった。」

詠歌  「ん? 意外って?」

WC  と、ドアが開き、しどけない格好の詠歌が顔を出す。眠そうだ。

平太  「いえ、なんでも無いです。寝てましたか? すいません。」

サヤ  「あわわ、すみません。お休み中に。」

詠歌  「あー…いいわよ。なに?」

平太  「ちょっとお願いがあって来たんですけど、柏陽さんの部屋でちょっと捜し物をさせてほしいんです。」

詠歌  「うん?…良いんじゃないの。」

平太  「え? いいですか? 意外です。」

詠歌  「意外? 何でよ?」

平太  「犯人扱いしてたから、『ダメ』って言うかと思った。」

詠歌  「ああ…って、こんなところで長話もないわね。どうぞ。」

WC  と、ドアを開き、中に招く。  
 
平太  「あ、すいません。今は一人ですか?」

詠歌  「ミハエルはアトリエでお仕事中。気にしないで入って。 あ、ワンちゃんは外でお願いね。あたし鼻が弱くて。」

サヤ  「あらら、ごめんなさい。リキごめんね。」

平太  「じゃあ、お話聞かせてください。」

WC  と、テーブルの横に置かれた背もたれなしのソファを勧められる。

詠歌  「なあに?」

WC  と、簡単に身づくろいしながら。

平太  「まず、なんでオレらが『犯人』だと思ったんですか?」

詠歌  「なんとなく。」

平太  「…根拠無しか…。」

詠歌  「というか…そんなこと思ったつもりないわね。」

平太  「どういう事? 柏陽さんは誰かに殺されたと思ってるんですよね?」

詠歌  「そりゃそうでしょ! 何であの元気な人が突然死ぬのよ。 偶然? 
そうね、その可能性はあるわ。でも、殺された可能性のほうがよっぽど高い。 
あんた、マフィアのボスが死んだって聞いて、『ああきっと事故か病気で死んだんだな』って思うわけ?」

平太  「それは、殺す人思い当たるってことですか?」

詠歌  「さあねー?」

平太  「マフィアのボスには敵がいる。だから事故や病気の可能性が低いって言いたいだけですよね。」

詠歌  「あらら。政界財界を影で牛耳る吐月柏陽に敵がいないとでも?」

平太  「いるでしょうね。」

サヤ  「詠歌さんはどうやって知ったんですか? 倒れてらっしゃる事。」

詠歌  「サンルームにいたら、蒼次郎さんが呼びに来たのよ。 びっくりよ。まさかあの人が倒れるなんて!」

サヤ  「紅廉の間に入っていく柏陽さんには気づいてたんですか?」

詠歌  「午前は出てたけど、午後からずっとサンルームでお仕事よ。全然わかんないわ。」

WC  正直、しぐさと良い、言葉といい、はじめにあったときよりはるかに色っぽく、攻撃的だ。 
興奮している感じがする。当然ともいえるが。

詠歌  「で? どうなの? 何か、ないわけ? あんたたち、色々調べまわってるんでしょ?」

サヤ  「今のところはさっぱりですね。」

平太  「犯人はこの屋敷の誰かです。」

詠歌  「あらら。疑われちゃった。」

平太  「って言ったら信じます?」

詠歌  「そりゃそうでしょ。」

平太  「詠歌さんは、外の俺たちに『殺人者』と言ったから、この屋敷の人とは思ってないって事ですね。
そう思ってるのかと思いました。」

詠歌  「殺しなら犯人がいて、それが地球の反対側に住んでるワールドカップの得点王なわけないでしょ。ばっかじゃない? 
首を絞めるなら手の届くところにいないと。」

平太  「なんだ、結局は詠歌さんも屋敷の人を疑ってるんですね。」

詠歌  「疑うとか疑わないとかじゃなくて。それ以外にないでしょ。選択肢が。それとも、あんたたちがやったの?」

平太  「冷静ですね、皆さん。」

詠歌  「どこが?」

平太  「別に。」

詠歌  「みんな浮ついてるわ。お祭りが始まったみたい。」

サヤ  「あのあの、詠歌さんはご当主に立候補されるんですか?」

詠歌  「立候補ねえ。ガッキューイインチョーならそれでも良いんだけど。」

サヤ  「でも、4人で話し合うしかないですよね。」

詠歌  「そうね。多分、午後から話し合いね。」

サヤ  「やりたい、という意志はあるんですか?」

詠歌  「蒼次郎さんも、共由も、きっとね。」

サヤ  「そうなんですか?」

詠歌  「なかったらオトコじゃないわ。」

サヤ  「ミハエルさんも?」

詠歌  「そうね。だって、みんな権利あるもの。手を伸ばせば届くのよ。」

サヤ  「でも、ご自分でお仕事されてる方々なので…そっちの世界を離れなくてはならなくなっちゃいますよね。」

詠歌  「そんなの、ここに生まれたときからずっとよ。いまさら! 
好きな仕事場に半日しかいられないのなんて。迂闊に旅行にもいけないのなんて。いまさら! 
…でも、魅力あるのよ。その部屋を好きに出来るってことは。何かを犠牲にする価値は十分に。」

WC  と、婉然と笑う。

詠歌  「でも、ツマンナイわねー。こう、ビシッと犯人でも捕まえられないワケ? 蒼次郎さんとか、どう?」

平太  「どうって…」

サヤ  「蒼次郎さん? なんでですか?」

詠歌  「ずっと当主の日陰仕事で、ストレスたまってるわよ。きっと。」

サヤ  「なるほどねぇ…。」

平太  「ストレスなんてみんなたまってるんじゃないですか?」

詠歌  「うふふー。ツマンナイわねー坊や。」

サヤ  「言われちゃいましたね〜、へーたん。」

平太  「はいはい、じゃあ犯人がわかったらびしっと言いますよ。」

詠歌  「ふふ。良いわね。」

平太  「とりあえず、柏陽さんの部屋に入りますから。」

詠歌  「もうキミの中で事故とか言う逃げの口実はなくなったわねー?」

平太  「ええ、なんか敵が多いらしいですし。部屋で敵らしい人の証拠も探します。」

詠歌  「ステキな平和主義ね。ラブ&ピース!」

サヤ  「全然♪ これから大手を振って、皆さんを疑ってかかれるわけですから。」

平太  「さやねぇ…。」

WC  へーたの方にちらっと太ももでも見せるかのように裾を捌いて立ち上がり。

詠歌  「『おもてなし』できなくてごめんなさいねー。」

WC  と、サヤにウインク。

平太  「さ、いこっか。」

サヤ  「そうだね。(どうしても詠歌さんと話してると、売り言葉に買い言葉…で言い過ぎちゃうし。)」

平太  「…(まあ、本人気にしてないし行こう。)」

サヤ  「お邪魔しました。」 
 
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