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虚空の翼
◆2話 ◆ うつつにうつるはまぼろしの |
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| 死の真相 | |||
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山道を駆け、吐月館に向う。
日の傾く前、ゆっくりと午後の日差しが力を失ってゆく。
3時過ぎだろうか。吐月館前。
平太 いっきにサルーンまで駆け上がろうか。 サヤ とりあえず、皆さんに声かけに? 平太 そだね。 |
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では、2階。
平太 「皆さんすいません!…はあ…はあ…」 WC ホール左手の階段を駆け上り、上品な木彫りの戸の前だ。戸は閉ざされている。 サヤ え〜。 平太 ガンガンガン。 サヤ 「すみませ〜ん。ぜえ、ぜえ。」 WC 蒼次郎の声が中から。 蒼次郎 「…なにかね!? 事情はわかっているんだろう?」 平太 「鍵です! 紅簾の間の扉が開くと思います!」 蒼次郎 「…」 平太 「一緒に来てください!」 WC しばらくの沈黙。 ゆっくりとサルーンの扉が開く。 平太 「長月館で見つけたんです…。」 WC テーブルに、4人の住人がかけている。 あっけにとられた顔の詠歌。 平太 「この紙に鍵が包まれていたんです。」 WC 不思議な無表情の共由。 平太 といって、紙をばん!っと机に。 WC ミハエルは少しだけ舌打ちをする。 平太 「鍵はこれです! 行きましょう。」 WC 蒼次郎が紙を取り上げ。 蒼次郎 「それに何の意味があるのかね?」 平太 「…は?」 蒼次郎 「兄の遺体を見て、君はどうしたいのかね?」 平太 「…なにって、柏陽さんを外に出してあげないと。」 詠歌 「あー!」 平太 「…あ?」 詠歌 「探偵さんだもん、『犯人はお前だ!』って、やらないと。」 WC 詠歌が嘲るように言う。 平太 「…あんたら… 柏陽さんは、家族じゃねーのかよ! 理由はそれだけで十分だろ!!」 サヤ 「とりあえず、出してあげましょうよ!! あのままなんて、かわいそうですよ。」 ミハエル 「塵は塵に。遺体はもうつらいとは思いません。レディ。」 WC ミハエルが首を振る。 平太 「探偵ごっこをやりにもどってきたわけじゃねえ! 蒼次郎さん、あんたは兄弟だろ? 違うのか?」 蒼次郎 「兄を弔うのは私たちの義務だ。 しかし、死者よりも生きているものを守ることの方が、重い。」 平太 「詠歌さんあんたは、子供! ミハエルさんは義理の父。」 WC 肩をすくめる詠歌。 ミハエル 「興奮しないで下さい。悲しんでいるのはあなただけではないのです。」 WC ミハエルが優しく言う。 平太 「悲しんでるなら一緒についてこい! まずは出してやれ! 話はそれからでもできるんじゃねーのか!」 蒼次郎 「電車が1時間遅れると、いくらの損害が出るか、知っているかね? …金の話ではない。それによって生きる、人間の話だ。 この話し合いが1時間早く終われば、滞っている幾つもの仕事が動く。それによって収入を得るものがいる。 遅れたら、それを得られない者もいる。話はそれからでも、の意味がわかっているかね?」 平太 「だからなんだよ、親しい人が助けられなくて、なにが世界だ。」 詠歌 「もうたすからないけどねー…。」 WC 詠歌がぼそりと呟く。 サヤ 「ええ、あなたたちが見殺しにしたからね。」 詠歌 「あらら。」 平太 「共由さん、あんたも動けないのか?」 共由 「…」 WC 共由は、考えている。 うかつに動けない立場。話し合いがどのように進んでいたのかは知るべくもないが、乗り込んできた時の空気を見れば、それくらいのことはわかる。 ミハエル 「ああ。あなたの言うことはわかります。僕たちも早くお義父さんを弔いたい。 だからこそ。今はこの話し合いに早く決着を付けたいのです。出て行ってもらえませんか?」 WC ミハエルは悲痛な表情で立ち上がり、へーたと共由の間に入る。 平太 「柏陽さんはあんたの父親だぜ。共由さん。それでも、動けないのか?」 共由 「…」 WC ミハエルにさえぎられ、共由の表情は見えない。 サヤ 「ようたさん、ですよね?」 共由 「…なぜ、その名を?」 WC 初めて共由が声を上げる。 平太 「柏陽さんの部屋で、大事に写真がとってあったじゃないですか。」 詠歌 「? 何の話よ?」 WC 実の娘が声を高くする。 平太 「あの写真の裏に名前が書いてあったんですよ。」 蒼次郎 「大門君!」 平太 「詠歌さん、あなたの写真も一緒にです。」 WC 蒼次郎が声を荒げる。 蒼次郎 「他人の家の事情を口に出すのかね。それは君の領分を越える。わかっているかね?」 平太 「出しますよ、柏陽さんが大事にしてた思いを子供に伝えて何が悪い! 事実だろうが! だから、あんたらには一緒に来てほしーんだよ!」 共由 「…何をしろと?」 WC 共由が。 共由 「…僕に、何をして欲しいんだ?」 平太 「来てくれるだけでいいだろ! で、出してやるんだよ。」 WC ミハエルを押しのけて、共由が立ち上がる。 共由 「すまない、ミハエル君。」 ミハエル 「…!」 WC ミハエルの表情が醜く歪む。 しかし瞬時に、天使のような笑顔に戻り。 ミハエル 「ああ、行ってあげるんだね。良いとも。 『使用人の子供』だというのに、アレだけ大切にされていたんだ。ぜひ行ってあげると良い。」 サヤ 「…。」 WC 追い出す気満々ですね。願ったりなのでしょうか。 サヤ 「どちらにしても紅廉の間が開くなら…、あなたたちはここで話し合いをする意味はない。 …一緒に来たらいかがですか?」 ミハエル 「…!」 WC 盲点だったようだ。 「その可能性」に思い至った詠歌・ミハエルの顔が引きつる。 平太 「(ナイス! さやねぇ!)」 WC そう。 紅簾の間が開くなら。 そして、そこに共由が、第3者とともに入るなら。 彼は宣言できるのだ。 「当主」の権利を。 4人 「…。」 WC 蒼次郎が首を振って立ち上がる。 蒼次郎 「仕方がない…。兄の死に顔に、手を合わせにいくか。」 WC それを見た詠歌、ミハエルも。 詠歌 「…OK。いいわ。」 ミハエル 「そうですね。家族の義務を果たしましょう。」 WC さすがの外交能力。さっと仮面をかぶる。 平太 じゃあ、紅簾の間に行こう。 これで鍵合わなかったら、次の殺人が起きるな…。 サヤ ですね〜。 |
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