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虚空の翼
◆2話 ◆ うつつにうつるはまぼろしの |
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| 死の真相 | |||
| 【紅簾の間】
平太 「蒼次郎さん、開けますか?」 蒼次郎 「いや。君があけると良い。」 平太 「じゃあ、開けます。」 WC かちゃり。鍵はゆっくりと回る。 そして、積み重なった時間を掻き分けるように。 ゆっくりと、おもいおもい引き戸が開く。 部屋の名を表わす紅い簾は外気に揺られ。 ゆるり、ゆるりと、暗い炎のように揺れる。 …誰も動けない。 サヤ ホントにうごけな〜い。 平太 入ろう。さやねぇ。 サヤ う、うん。では意を決して入りますか。 平太 うん。おれは、うつぶせの柏陽を上向きにしてあげたい。 WC ほのかに香る 龍脳 龍脳樹から採れる結晶で、主に香として用いる。 樟脳に似た香りで、防腐作用などを持つ。 。 香と、部屋自体がもつ冷気のせいか。 異臭を放つこともなく。 柏陽の遺体は天を向く。 …ことり。 彼の体から、小さな杯が床に転がる。 サヤ 手に取っていいのかな? おそるおそる手を伸ばす。 WC 酒盃のようだ。中には何も入っていない。当然だが。 平太 周りをみて、机の上とか何か無い? WC 何も。 身一つで。 共由 「どうして…。」 WC 共由が近づいて、遺体にかがみこむ。 サヤ ニオイは? 酒盃の。 WC 特には。アルコール臭かな。かすかに。 サヤ 出しますか? 平太 うん。はがきだね。 WC 葉書出す? ポストか? ポストが必要か? 平太 落としのサヤねぇに任せようか?(笑) WC 誰だよ。 サヤ やだ〜。 WC 南部署か。 サヤ かつどんかつどん。 平太 2人いて、片方がきつく言って、あと片方は「まあまあ」っていうんだよね。 WC 鬼の大門。仏の川原。 平太 それそれ(笑)。 サヤ ぴったり。 WC ちりん。 気配が。 「何か」の気配がある。 長月で繰り返し調べてきた二人には。 今だけ。今しかない。残っている。 サヤ けむり〜〜〜。 WC ありがたみねー。 サヤ お香だお香。 平太 「さやねぇ!」 香炉とお香を置く。 サヤ 「うん。気をつけて。」 |
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| 平太
「下がってください!!」
WC 無理無理。皆、硬直している。下がるに下がれまい。 ゆらり。 香の煙が立ち昇る。 静かに、過去の幾多の物語を写し。 ゆっくりと濃い像を結んでゆく。 部屋の中央に小柄な老人が立っている。 サヤ 皆にも見えてそう? 共由 「…」 WC 共由がふと顔を上げる。 蒼次郎 「…兄貴。」 WC 蒼次郎が呟く。 詠歌 「なんで…」 WC 詠歌は一歩前に出る。 ミハエル 「まやかしだ…。」 WC ミハエルは呟き、あとずさる。 老人は、右手に小さな杯を持っている。 その杯を四方に掲げ、この部屋に満ちる歴史に敬意を表するように。 勝鬨を上げた力士が天・地・人を拝するように。 ゆっくりと礼をする。 そして。 杯の酒を飲み干し。 表情など読めないはずの影から、笑顔の気配が。 ぐらりと。 遺体のあった場所に寸分たがわず。 倒れる。 影の笑顔が遺体の笑顔に重なる。 見るものによってきっと違う風に見えるだろう。 サムライの死の間際の顔とはかくも美しい。 何を思っていたのかは… 永遠にわからない。 サヤ ポタポタ。サヤの目から塩水が…。 平太 「これが事の真相です…。」 WC 香の煙が霧散してゆく。 共由 「…わかりました。…父さん。」 WC 共由が…鳴海陽太が呟く。 平太 さやねぇの背中をぽんぽんとたたく。 サヤ 「うぅ、ごめん。」 ミハエル 「意味ないだろう! こんな茶番が真相? 笑わせる!」 WC ミハエルが叫ぶ。 ミハエル 「だからどうだって言うんだ!」 平太 「人殺しがいなかった! それは一番いい事だろが!!」 ミハエル 「…ッ!」 蒼次郎 「詠歌…お前は、どう、感じた?」 WC 蒼次郎が、一気に老け込んだような声で訊く。 詠歌 「もう、終わりにしろって。 父さんが…あたしの…、あたま、なでて…今、出てッた。 …ここから。」 蒼次郎 「…そうか。俺もだよ。」 詠歌 「…ミハエル。旅に行きましょうよ? 好きな写真とってさ。面白い場所回ってさ。 好きなことしよう?」 WC ミハエルは、そんな詠歌の顔を見る。 ミハエル 「…それも…」 WC 疲れたように。 ミハエル 「いいかもね。」 WC 微かで素朴な笑顔を浮かべ。 ミハエル 「人形より、生きている女性の方が、きっと綺麗だね。」 WC 2人は、静かに進み出て、遺体の前で黙祷する。 蒼次郎も、それに続く。 共由 「大門さん、川原さん。」 WC 共由が立ち上がる。 サヤ 「はい。」 平太 「はい。」 共由 「これから、もう一度話し合います。 叔父さんと、姉さんと、義兄さんと。」 WC そして、頭を下げる。 サヤ 「はい。」 平太 「…俺たちはまだ仕事があるんで…ちょっと出てきます。 また来たときに、話し合いが終わってるのを期待してます。いい方向に。」 共由 「はは。終わらせるのは、ちょっと難しいと思いますよ。 でも、良い方向に。…必ず。」 平太 「はい!」 WC ちょっとだけ、黙祷を捧げる家族たちの方を見て。 共由 「今日は、市内にホテルを手配します。」 平太 「あー…すいません。」 共由 「多分、お泊めする事は難しいと思うので。 長月館の前までタクシーを呼べるように手配しておきます。 そちらを使ってください。」 平太 「何から何まで、すいません。」 サヤ 「ありがとうございます。」 WC 実際は、長月館前の林道入り口までホテルの迎えの車をよこし、待たせるようなので、どうにも間に合わないときの連絡先のメモだけ貰うことになった。 君たちは、好きな時間まで探索し、林道を抜けて行けばホテル直行である。 |
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| 平太
「本当に、長い間お世話になりました。ご飯おいしかったです(笑)。」
サヤ 「ええ、本当に、ありがとうございました。」 WC 玄関に、3人は姿を見せない。 平太 うん。 WC 共由、陽太が代表して。 共由 「まだ皆さん、落ち着いていませんから、僕の方で代わりに。 こちらこそ、本当に有難うございました。」 平太 「じゃあ、お元気で。」 共由 「いってらっしゃい。頑張って!」 サヤ 「はい! 行ってきます♪」 平太 その声を背に受けてまた行きますか。 サヤ 行きましょ〜。 WC まあ、この館に来る事はしばらくないと思うが…心意気なんだろう。 サヤ うん、お互いにね。 平太 うんうん。 |
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